朝一番に検査の説明を受ける。
あのねのねの清水國明似のベテラン看護師さんが丁寧に
指導してくれた。
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この下剤を全部飲み干して、午前中に腸内を空洞にせよという。
ポカリスゥエットのような味を2リットル。
ビールなら、お安い御用であるが、甘いのは苦手である。
せめて紙コップの底に紺色の二重丸でも描いてくれれば、
新酒の利き酒をしている杜氏のような雰囲気も味わえるのに。
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半分飲み干した時点で最初の兆候が現れると聞いたのだが、
一向にその気配が…。…きた。
都合5回ほどトイレを往復して、最終確認を看護師さんにお願い
しなければならない。
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おのが排泄物を他人に見られる屈辱感もさることながら、
なんだか申し訳ない気分で「恐れ入ります。」とお願いする。
胆汁によると思われるクリーンなレモン色の水を確認してOK。
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さて、紙製の手術着とアナーキーなパンツに着替えて
内視鏡室へと。
精密機械の正面に黒くて長いホースが見える。
モンブランの万年筆くらいの太さ。
「…まさか。こんなの。違うよね。無理よ。アタイ。」
…はたしてそれであった。
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俎板の上の鯉となった私に麻酔の注射が施される。
頭の中で「仮面ライダー本郷猛は改造人間である。…。」
とニヒルなナレーションを呟いていると、「ゼリー塗りまぁす。」
「や…やだ~~~っ!…うっぷすっ!」
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内視鏡には熟練を要するらしく、ベテランが操作すると殆ど
違和感なく診療が進むらしい。
ところがどうやらH医師は若すぎる恋人のようであった。
腸壁の曲がり角で苦痛に顔が歪み、脂汗が流れる。
「ゆっくり…きて…。だめっ!そんなに乱暴にしちゃ。あん。」
「痛かった?ごめんなさい。」
エイリアンさながらに管が腸内をうねる違和感たるや。
シガニー・ウィーヴァーも真っ青である。
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待合室で見ていたグロテスクな病変の写真を想像しつつ、
盲腸付近に辿り着いたカメラのモニターを恐る恐る眺める。
…綺麗だ…。
わが腸ながら、色艶ともに申し分なく、軽く塩をして炭火で
炙れば何杯でも飲めそうな感じである。
「これが盲腸です。」
H医師が示す部分は軟式ボールの臍のように少しくぼんで
いる。
ああ。その部分から虫垂が垂れてるのか…って。先生。
「3~4cmの病変というのは…どこですか?」
「ないですね。そう見えただけだったんでしょうねぇ。」
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無責任だ。あまりにも。
すでに秋光の名に恥じぬよう、春の季語で辞世の句まで
準備していたのに。
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それでも内部に大小のポリープが発見されたので、切除して
もらった。
キノコのような病変にワイヤがかけられ、根元を絞って焼き切る。
最期の一個が、かなり大きな病変であったのと、S字結腸に
存在していたため、H医師は悪戦苦闘を続けた。
「だめだ。抜けちゃう。」
「角度が…難しい。」
結局、切除後のクリップ(傷口を挟む鰐口クリップのようなもの。)
がどうしても挟めないようで、「もう。無理だ。」
「出血があるかもしれないけど、その時はその時としましょ。」
もう。いいや。どうだって。
それより、そろそろ陵辱から解放されたい。
次は、もっと大人な彼を選ぶわ。
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リカバリー室で止血剤の点滴を受けるも、一向に落ちない。
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ワイフが若い美人看護師さんに声をかけて、セットし直して
もらった。
どうやら血管内部に針先が当たっているようで、微妙な角度
でないと正常に落ちてこない。
私の右腕にしがみつくように奮闘する彼女に、患者特有の
少し疲れた子犬のような眼差しをむけ、小声で「ありがとう。」
と囁く。
ナイチンゲール症候群を喚起された彼女は、長い間苦労して
やっとセットできると、頬をあからめ「また…きます。」とその場
を去った。
面白くないのはワイフである。
私の解説に、般若の形相で、
「一度抜いて、刺し直したらいいだけでしょ?」
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麻酔による麻痺のため運転は禁止されていた。
ピンチヒッターとして長女がきてくれてたが、面倒なので
自分でハンドルを握る。
遅れついでに、先日作業したイルミネーションを眺めて
帰路についた。
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炬燵に落ち着いてから、安堵した表情のワイフに
「けど…結論として…アナルは…無いな。きっと。」
しんみりと無茶振りすると、
「余計なことを言わない!」
長女からピシャリと抑えられた。
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