犬も歩けば。
妙な虚脱感とともにぼんやりと目覚めた。
そんな私を叱咤するかのごとく、木春くんより急ぎの見積り
及びデータ作成の依頼がある。
慌しくまとめあげたファイルをメール添付で送ろうとしたものの、
容量が大きすぎてエラーになる。
仕方なくCDにデータを焼いて直接届けた。
・
「さて。昼から飲んでこましたろ。」
などと悪しき考えが頭をよぎり、近所の大型酒店へ。
トラックを駐車スペースに潜りこませるべく、やっと一台分の
空きスペースをみつけ、進入を試みるも、不埒にも前を横切る
一人の男。
目力を入れてよくよく見れば…。…。
見た顔…。
脳に蓄積されたデータファイルが拡張子をJPGに変換して、
光速スライドショーが展開する。
口を半開きにしたまま真っ白な瞳で探し当てた一枚。
ビンゴ。
・
「Iさんっ!Iさんぢゃないですか!」
「…。???。」
サングラスを外して助手席に投げ飛ばすと、Iさんは驚愕の
笑みで破顔した。
「うおっ!moukunっ!」
無理もない。20年ぶりだもの。
・
工業高校の先輩でもあるIさんは、新入社員であったダメな私
を、ことのほか可愛がってくれた。
エッチなことと、車のことしか考えてなかった当時の私は、仕事
においても当然のごとくミスを連発し、たちの悪いことに、その
ミスさえも反省せずにそっぽをむくようなダメ人間であった。
世間に「新人類」という言葉が流布した時代。
そんな私が、ある日フォークリフトで社屋を突き破ったとき、
「moukun。お前。これ以上ペナルティーがついたらやばいから。
これは、俺がやったことにしておくぞ。」
男気に身体が震えて、その日から私は変わった。
瞬く間に優良社員表彰として自社株のご褒美をいただいたのも
Iさんのおかげである。
・
記憶というのは、すごいもので当時の光景がリアルに浮かぶ。
繁華街に飲みに出かけた私が仲間と別れ、帰路についた時
一際輝きを放っている、人待ち顔のIさんを見かけた。
ホストの男なんぞ足元にも及ばぬ貴公子が黒いコートを纏って
腕時計を眺めていた。
私のワイフにでさえ「Iさんのファン。」だと言わしめた美男子は
今年で48になると言う。
・
私の同期入社の男の話。お互いの子供の話。現在の暮らしの
話。
延々と男同士の立ち話は続いた。
・
早く気付いてあげなければならない。
Iさんは両手に沢山の買い物袋を携えて、そろそろ指が
血行不良で壊死する寸前。
名刺を手渡し、「遊びに来て下さい。」と伝えてお別れした。
人間。生きてるとハッピーな一日もあるもんだと感じた。
| 固定リンク
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/145037/43199315
この記事へのトラックバック一覧です: 犬も歩けば。:





コメント