K組の頭から携帯に電話がある。
簡単な作業の依頼を受け、ものの数分で段取った後、
何か手土産をと物色する。
暑い時期ゆえ、桃とアイスクリームを保冷袋に詰め込み、
焼け付くマッハ号のエンジンを吹き上げた。
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到着すると、先ず体調が気に掛かったので「どうですか?」
と問うと「食欲が無いんでなぁ。」との答え。
さほど重要でもない仕事(私を呼び寄せるための口実)を済ませ
リビングに招かれる。
「暑い時期やけん、なかなか食べれんやろうけど、無理してでも
何か口に入れなダメですよ。」
「…これでええかい?」
私のことなどどうでもいいのに、頭は、いそいそと冷蔵庫から
カルピスウォーターを差し出してくれた。
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入院の報を受け、市民病院にお見舞いに行ったのが先月の末。
イヤフォンをしてTVを見てた頭は、ゆっくりと身体を起こし、
「ああ!moukunか。たまげたが(びっくりした。)。」
「どうなんですか?具合は?」ニコニコと問いかける私に、
「それがな。…参っとんよ。CTで撮影したら胃から肝臓にまで
転移しとって。もう開腹してもしょうがないらしい。3ヶ月やと。」
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近頃の医者は安易に告知してしまうらしい。
情報の氾濫した昨今では語るなと言うほうが難しいのか。
絶句した私に、訥々と今後の仕事について憂慮する頭の
お言葉が続く。
曖昧な相槌しかできない己の無能さを呪っているうちに、頭の
ご親族が訪れた。
努めて明るく振舞おうと、花だ水だと走り回る娘を諌める頭。
「周りに患者さんがおるんぞ。静かにせいっ!」
とことん紳士な患者である。
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不本意ながら人生という物を見せていただいた気がした。
立派に育った息子夫婦。心根の優しい娘さん。
三歩下がって夫を支えるご夫人。
居場所を無くした私は「あまり長居して、お疲れが出るといけない
ので失礼します。」と退去した。
エレベータ前までつきそってくださったご夫人に、「何でも言って
下さい。私が動けること。」
「うん。もう一階も綺麗に片付けよんよ。」
柔らかな表情で全てを悟っておられるご夫人が、また辛かった。
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K組のリビングで頭と話したのは、せいぜい他愛の無い
話で、肝心なときには気の利いた言葉も出ない。
ただ、その時間だけは、心の印画紙に焼き付けようと躍起
になってる自分がいた。
「病気なんかに負けんとってください。」としか言えなかった。
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私を大切にしてくださった方である。
頭の悪口は誰からも、一言も聞いたことがない。
おおらかで、不器用で、優しくて、真面目すぎる人だ。
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帰り道、サングラスの隙間から涙がこぼれて困った。
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自分の日記なのでもう少し泣く。
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